以前はブリストル系という括りがあり、The Wild Bunchを母体としたマッシブアタックやトリッキー、ポーティスヘッドなどの暗い、所謂トリップホップ系のサウンドがクラブシーンを中心に流行っていました。同時に早くからブリストルで活動していたスミス&マイティ、当時新進気鋭だったアルファなども注目されていたと思います。そのように非常に盛り上がっていたブリストルシーンが生み出した最高のアルバムこそマッシブアタックの『メザニーン』でした。渋谷のレコードシップでは発売時に壁一面にクワガタのジャケットが並んでいたのを今でも覚えています。
アルバムレビュー
↑Discogsより
Massive Attack『Mezzanine』(1998)
内容:★★★★★
当時から注目されていて発表されて大絶賛、様々な映画でも使用されて今ではクラシックアルバムとなっています。
90年代後半のUKではジェームスラヴェルのMo’Waxレーベルがクラブミュージックシーンを席巻していて、Aphex Twinやスクエアプッシャー、オウテカなどのワープ系が同時にひしめき合っていました。トリップホップは、デトロイトテクノやシカゴ音響系などとも競い合うように急速に影響力を培っていったというイメージです。しかし、ブームも急速に収束し…というかドラムンベースやエレクトロニカの波に飲み込まれて消滅してしまいました。コンピレーション『Headz 2』が示すように、ジェームズラベルはドラムンベースもトリップホップと同列だと考えていたようですが、ちょっと風呂敷を広げすぎたような気がします。なにより、トリップホップというラベル付け自体がアーティスト側に嫌悪されていました。
↑『Risingson』シングル(Discogsより)
記憶だと97年に先行シングル「Risingson」が発売されて、当時ちょっとあれっと思ったことを覚えています。前作『Protection』と比べて暗く重いサウンドに変化していました。が、このシングルにはそんな事はどうでもよくなる大名曲「Superpredators」が含まれています。ブルースウィルスとリチャードギア主演の凡作映画『ジャッカル』のメインタイトルに使用された楽曲で、個人的にはNIN『セブン』並び強烈な印象を残してくれました。シングル盤はクリアビニールでナンバリングしてありました。「Risingson」にはルーリードがクレジットされていますがサンプリング元という事でしょう。
↑「Superpredators」
半年後に出たアルバム本編
↑裏ジャケット
そして98年になってからアルバムが発売されたのですが、アタマの「Angel」からへヴィーなギターが使われていて随分とロック寄りのサウンドになったというのが第一印象。当時はデジタルロックの全盛期でマッシブアタックがそれに乗ったとは思いませんが、ちょうど流行にもフィットしていました。
「Teardrop」「Black Milk」「Gourp Four」には4ADを代表する歌姫エリザベスフレイザーが参加。特に後の2曲はこのアルバムでも出色の完成度を誇ります。なぜ4ADの名を出したかというと、この『Mezzanine』を聴くと、4ADが誇るあの似非ワールドミュージック(褒め言葉)のDead Can Danceやコクトーツインズを連想してしまいます。『Mezzanine』に仄かに漂う無国籍〜多国籍感から、もしこのアルバムがヴァージンではなく4ADから発売されても全く違和感がなかったと思います。
このアルバムの凄みはシングルカットされた前半4曲はいうまでもなく、後半の曲の素晴らしさにあります。「The Man Next Door」だけカヴァー曲ですが、多少気色は違うもののへヴィーなアレンジで意外とアルバムに溶け込んでいます。
やはり「Black Milk」「Mezzanine」「Group Four」の3曲がこのアルバムを『OK コンピューター』クラスの名盤の高みにあげたと言っても過言ではありません。ダブ、ヒップホップ、ロック、ニューウェイブ、テクノ…彼らが影響を受けたもの、積み上げてきたものが全て詰まっています。
こだわりの音の選びやターンテーブルワーク、素晴らしいミキシングなど全てが職人技によって磨き上げられて、クラブミュージックが生み出した芸術作品『Mezzanine』。こんな暗いアルバムが全英1位を獲得するなんて流石UK。
↑Kate Bush『Dreaming』
このアルバムに匹敵するのは、ケイトブッシュの『ドリーミング』くらいしか思いつきません。ダークな雰囲気はピーターガブリエルの初期アルバムもしくは後にリリースされた『Up』に通じるものがありますが、『Mezzanine』の深く落ちていく感じこそこのアルバム独自性となっています。今聴いても楽曲は勿論、音作り一つ一つまでが色褪せていません。
ラジオからたまたま流れてきてアルバムを数回聴きなおしてみたのですが、数少ない「完璧」という言葉で形容できる作品です。
(K)